我々は、不全心筋の再構築過程に、心筋血流低下と分配の異常、ことに血管新生による毛細血管構築の破綻が心筋再構築を進展し心機能をさらに悪化させる機序を想定し、不全心筋においても血管新生療法の有用性が成立するかどうか明らかにする事を目的とし検討を行った。拡張型心筋症モデルハムスターでは、心不全期に心筋細胞密度が減少し、線維化組織容積が増大するとともに毛細血管密度が減少し、VEGFの遺伝子発現が抑制されていること、また、薬物治療により心筋線維化が抑制されているとともにVEGFの遺伝子発現、細静脈性毛細血管密度が回復することを観察した。阪本、豊岡らは拡張型心筋症モデルハムスターにおいてdelta-sarcoglycanの欠損があり(1997年)、これを遺伝的に補充するとある程度心機能が回復することを報告している(2000年)。さらに、1999年Coral-Vazquezらは、本来は心筋、骨格筋、血管平滑筋で発現しているdelta-sarcoglycanを遺伝的に欠失させたマウスでは、拡張型心筋症類似の病変が形成されるが、冠静脈平滑筋の数珠状変化とともに毛細血管血流減少が生じており、しかも、血管病変が心筋壊死に先行すること、、さらに、血管病変は心筋、骨格筋では発現しているが血管平滑筋では発現していないalfa sarcoglycan欠損マウスでは生じないことから微小血管障害が本態であると想定した。これらの発見は我々の研究とも基を一にしている。我々はターゲット遺伝子としてヒトangiopoietin1及び2遺伝子をVEGFとともに心筋へ導入手法を開発した。従来、アデノウィルスによる遺伝子導入ではアデノウィルス自身が異物として認識される問題があった。我々はT細胞のcostimulatory signalを抑制するため、AdexCTLA4Igを作製し、免疫学的寛容状態を誘導する手法を開発した。すでにAdexCTLA4Igのコンストラクトを作成しLacZの発現延長を確認した。血管新生はVEGFにより内皮細胞が誘導され、促進因子angiopoietin1と抑制因子angiopoietin2とによって調節される。そこで、VEGF、angiopoietin1、angiopoietin2それぞれ単独あるいは併用して遺伝子導入を試みている。
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