本研究では、伸展刺激による心肥大形成に低分子量G蛋白Ras(p21^<ras>)/mitogen-activated protein(MAP)kinase系は関与するか否かを明らかにする目的で、新生児ラット無血清培養心筋細胞においてp21^<ras>のfarnesylationを抑制するHMG-CoA還元酵素阻害薬lovastatinを用いて検討した。その結果、1.伸展刺激はRNA含量および蛋白含量を増加させ、心筋蛋白合成速度を有意に亢進させた。さらに、伸展刺激はprotein kinase C(PKC)活性、MAP kinase活性およびc-fos mRNA発現を有意に増加させた。2.lovastatinは伸展刺激によるそれらの増加を濃度依存性に部分的に有意に抑制した。このlovastatinによる抑制効果はHMG-CoA還元酵素反応産物mevalonateの前処置により消失した。3.選択的protein kinase C(PKC)阻害薬calphostic Cは伸展刺激によるそれらの増加を濃度依存性に部分的に有意に抑制した。4.lovastatinとcalphostin Cの両者の前処置は伸展刺激によるそれらの増加をほぼ完全的に抑制した。以上の成績より、伸展刺激による心肥大形成にはPKC/MAP kinase系に加えmevalonate代謝に関連した系、おそらくp21^<ras>/MAP kinase系が関与していることが示唆された。 しかし、伸展刺激時に自己・傍分泌機構で増加するangiotensin IIが心肥大形成に大きく関与することが知られている。そこで、今後、angiotensin IIが実際にp21^<ras>を活性化させる否か、lovastatinがこの活性化を抑制するか否かを検討することにより、angiotensin IIによる心肥大形成にPKC/MAP kinase系に加えmevalonate代謝に関連したp21^<ras>/MAP kjnase系が関与するか否かを明らかにしたい。
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