心筋におけるGlucose transporter(GLUT)の主なアイソフォームであるGLUT1およびGLUT4が、ともに虚血および低酸素状態において増加することが、本研究におけるin vivoおよびin vitro実験により示された。これは、障害心筋でのエネルギー産生代償機構と考えられる。GLUT1およびGLUT4の発現亢進の機序として、ラット培養心筋細胞を用いた検討から、mRNAレベルでのup regulationが重要であると考えられる。両GLUTmRNAの低酸素誘導性増加は、1)タンパク合成抑制剤であるcycloheximide前処置、2)protein kinase C阻害薬であるH7、あるいは3)細胞内Ca^<2+>([Ca^<2+>]_1)キレーターであるBAPTA-AM、などにより抑制されることから、低酸素下のde novo protein synthesis、protein kinase C活性亢進、[Ca^<2+>]_1上昇を介する機序によりもたらされるものと考えられた。 一般に、低酸素応答性遺伝子の低酸素誘導性発現亢進の機序として、転写因子hypoxia-inducible factor 1 α(HIF1 α)の発現量および核内移行増加により、promoter活性が亢進することが重要である。本研究において、低酸素誘導性HIF1 α発現量増加は、BAPTA-AM前処置により抑制された。さらに、GLUT1 promoter-Luciferase plasmidをtransfectした後に低酸素曝露した心筋細胞においては、GLUT1 promoter活性は約1.5倍に上昇するが、これもBAPTA-AM前処置により抑制された。以上より、低酸素曝露時にHIF1 α蛋白量が、[Ca2+]i上昇を介する機序により増加し、この結果GLUT1遺伝子promoter活性が亢進することでGLUT1遺伝子発現が亢進するものと考えられた。
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