研究概要 |
抗不整脈薬は心筋のイオンチャネルを作用の標的とし、チャネルを流れる電流を抑制する。一方、生体では薬物によるその標的部位である受容体の数や機能が変化することも知られている。ここでは抗不整脈薬によりひとつまたはそれ以上のイオンチャネルが抑制されたときの、同一または他のイオンチャネルの変化を、RNase Protection Assay法による遺伝子発現の面から検討した。抗不整脈薬として現在まで突然死を予防する可能性の高くかつ市販されている抗不整脈薬であるアミオダロンを用い、心筋のカリウムチャネル(KV1.2,KV1.4,KVl.5,KV4.2,r-ERG)の遺伝子発現にどの様に作用するかを検討した。 方法:ラットを用い、アミオダロンの経口投与を1ヶ月行った。アミオダロン投与後には甲状腺機能異常(本邦では低下症が殆ど)をきたすことが知られていることから、甲状腺ホルモンの補充または抑制例でも、カリウムチャネルの遺伝子発現への影響も検討した。 成績:アミオダロンはKV4.2とKV1.5を減少させたが、甲状腺低下例では両者は著減した。アミオダロンと甲状腺低下例でKV1.2は同等に増加したが、KV1.4とr-ERGは甲状腺低下例でのみ増加した。T3の投与で低下したKV1.5は24時間以内に増加した。以上のmRNAの変化から、アミオダロンはKチャネルの遺伝子発現を抑制し、活動電位持続時間の延長を招く可能性があるが、これは心機能の維持には有利である。これに甲状腺低下例が加わると相加的に心筋の活動電位持続時間が延長することも想定される。極度の活動電位持続時間とQT延長による致死的不整脈はアミオダロンでは少ないが、その機序に個々のKチャネルの遺伝子発現の応答が異なる機序も想定され現在検討中である。さらにより大量のアミオダロンや甲状腺ホルモンによる個々のKチャネルの遺伝子発現の機序の検討も継続中である。
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