本研究は、我々の開発したダール食塩感受性ラット心不全移行モデルにdifferential display RT-PCR法(DD法)を応用することにより、心不全移行期の際に誘導的役割を演ずるシングナリング系の存在を提示することを目的とした。心肥大期と心不全期のサンプルを比較し、発現量に変化の見られた遺伝子130断片をゲルより切り出し、TAクローニングによりクローン化した。クローン化した断片のシーケンス解析を行うとともに、この断片をプローブとして、ノーザンブロッティング変法により発現量の変化を検証した。その結果、37遺伝子に発現量の差が見られた。得られた塩基配列を、公共データベース(GenBank)等を用いて、ホモロジーサーチを行ったところ、既知遺伝子23種、未知遺伝子14種(ESTを含む)であった。既知遺伝子の中には、既に心肥大、心不全で発現量の変化することが知られている心房性ナトリウムペプチド(ANP)遺伝子、α-cardiac MHC、などが検出され、ダール食塩感受性モデルラットの心不全モデルとしての有用性と遺伝子解析手法の有用性が確かめられた。また、得られた遺伝子の中には、これまで心不全と関わりが知られていない遺伝子も含まれ、心不全移行に関わる新たな病態メカニズムの存在の可能性が示唆された。今後は未知遺伝子のクローニングや心筋への遺伝子導入などにより心不全病態におけるこれらの遺伝子の機能的関与について明らかにして行く必要がある。
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