変異STAT3(DN-STAT3)と野生型STAT3 cDNA(WT-STAT3)を心筋特異モ-タ-に連結し、これらを高発現するトランスジェニックマウス(TG)をそれぞれ2ライン作製した。両TGにおいてSTAT3蛋白の発現は通常量の5〜6倍以上認められたがDN-TGは出生例が少ないためWT-TGのみを検討した。WT-TGにおける心臓での肥大関連蛋白遺伝子(β-ミオシン重鎖、心房利尿ホルモン並びにα-アクチン遺伝子)の過剰発現を認め、12週令で約15%の左室壁肥厚を認めた。STAT3は他細胞で細胞保護に関与することが報告され、またドキソルビシン(DOX)は心筋細胞毒性を有する事が知られている。そこでWT-TGにおいてDOX投与での生命予後改善効果の有無につき検討した。DOX腹腔内投与(15mg/kg)にてコントロ-ル(Cont)では10日後の生存率27%に比し、WT-TGでは72%と生存率の改善を認めた。ContではDOX投与にてα-アクチン遺伝子は著名に減少するがWT-TGでは軽微であった。mitogen activated protein kinase familyは現在p38MAPK、JNKとERKの3種類が知られ、前2者は細胞障害誘導、ERKは細胞保護に関与すると考えられている。DOX投与後ERK活性には差を認めなかったが、p38MAPK並びにSAPK活性はContでは上昇を見るが、WT-TGではほとんど上昇は見られなかった。以上よりDOX投与後にWT-TGにおける生命予後改善にはp38MAPK及びSAPK活性化の抑制が重要な機序の一つであることが示唆されJAK-STAT系-特にSTAT3を介する系-が心筋細胞障害抑制機構に関与していると考えられた。
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