STAT3はインターロイキン-6(IL-6)サイトカインファミリーの受容体であるgp130の情報伝達系下流分子で、心臓、肝臓をはじめ種々の細胞で発現している。今回その機能を検討する為STAT3-Cdnaと変異STAT3-cDNAとを心筋特異的に高発現するトランスジェニックマウスを作製した(それぞれWT-TG、DN-TG)。WT-TGでは心筋肥大関連蛋白遺伝子((β-ミオシン重鎖(β-MHC)、心房利尿ホルモン(ANP)、並びにα-アクチン遺伝子))の過剰発現を認め、12週令で約20%の左室壁肥厚を認めた。 又、ドキソルビシン(Dox)は心筋毒性を有し、拡張型心筋症様のドキソルビシン心筋症を誘導し早期に心不全死させることが知られている。Dox(15mg/kg)腹腔内投与にて10日目の生存率はコントロール(Cont)では25%に比し、WT-TGでは80%と著明に高いことが観察された。Dox投与後、Contではα-アクチン遺伝子発現の低下と心不全マーカーでもあるANP、β-MHC遺伝子発現の亢進を認めるがWT-TGでは変化を認めず心筋障害は軽度と考えられた。その機序としてDox投与後に関わらずWT-TGではSTAT3を介して収縮蛋白遺伝子発現が保たれる事、カルジオトロピン-I(CT-I)、ANP等の心筋保護因子発現が高い事等が考えられた。 更に、STAT3を活性化するgp130刺激により心筋細胞において血管内皮増殖因子(VEGF)遺伝子の誘導がみられた。WT-TGの心筋ではVEGFの発現亢進が、DN-TGでは著明な発現低下がみられ、心筋のVEGF誘導にはこの系が重要な働きを及ぼすことが明らかとなった。 以上から心不全や心筋虚血時に心筋から発現されるIL-6、CT-1によりSTAT3は血管形成の促進や細胞保護因子、心筋収縮蛋白発現の制御等を介し、幾重もの自己防衛機構に関与していることが明らかとなった。
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