酸化ストレスは心筋細胞のアポトーシスをもたらし、そのことが不全心の発症に関与することが示唆されている。一方、エンドセリン(ET)は、心筋細胞肥大因子であるとともに生存因子でもあり、抗アポトーシス作用を有することが示されている。今年度はETの心筋細胞のポトーシスに対する防御作用の情報伝達機構を明らかにようと試みた。しかしながら新生児ラット培養心筋細胞(NRCM)においては種々の酸化ストレスによってもアポトーシスは誘導できなかった。そのため、ETのもう一つの作用である心筋細胞肥大作用の情報伝達機構を明らかにした。NRCMにおいてETによるMAP kinasesの活性化を検討し、以下の結果を得た。ETはNRCMの蛋白合成の促進、細胞サイズの増加、ならびにアクチンフィラメントのサルコメアへの再構成をもたらした。次にその機序を明らかにするため、ETによる種々のMAP kinase(MAPK)の活性化を、p42/p44MAPキナーゼ(ERK1/2)に対しては、抗リン酸化p42/p44MAPキナーゼ特異的抗体を用い、p38MAPKに対しては抗リン酸化p38MAPK特異的抗体を用いて、それぞれWestern blotting にて検討した。その結果、ETは濃度依存性にERK1/2とp38MAPKの両者を活性化することが明らかになった。しかしながら、それぞれの活性化阻害薬ならびに、ドミナントネガティブ変異体を用いた検討により、ERK1/2の活性化は心筋細胞の肥大に必須であるが、p38MAPKの活性化は心筋細胞肥大に関与していないことが明らかになった。今後、酸化ストレスが、これらのMAPKsの活性化と如何に関係しているかを明らかにする予定である。
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