不全心における酸化ストレスの病態形成における役割の解明をin vivoおよび、in vitroの実験系にて試みた。 1)まず、生体における不全心モデルでの酸化ストレスの関与を明らかにする目的にて、マウスにおけるウイルス性心筋炎モデルを用い、抗酸化薬を投与することで病態がどのように変化するかを検討した。その結果、心筋炎に伴う、心臓からの活性酸素の産生、ならびにredox感受性転写因子であるNFκBの活性化を、抗酸化薬probucol(PB)が著明に抑制することが明かになった。さらに、心筋炎の心筋傷害と関係するiNOSの活性もPB投与にて著明に減弱していた。そしてPB投与群では心筋炎による死亡率が減少することも明らかになった。すなわち、この不全心モデルでは酸化ストレスが病態形成に関与していることが示唆された。次にラットの心筋梗塞後不全心モデルでも同様の試みを行ったが、有意な結果に至らず、酸化ストレスの不全心の病態形成への関与の程度は、基礎疾患により異なることが推定された。 2)続いて、不全心の形成に関与する心筋細胞内情報伝達の解明を試みた。そのため、不全心にてその発現が増加するエンドセリン(ET)に着目し、新生児ラット培養心筋細胞(NRCM)を用い、心肥大に至る細胞内情報伝達機構を明らかにした。ETは濃度依存性にp42/p44MAPキナーゼ(ERK1/2)とp38MAPキナーゼ(MAPK)の両者を活性化することが明らかになった。しかしながら、それぞれの活性化阻害薬ならびに、ドミナントネガティブ変異体を用いた検討により、ERK1/2の活性化は心筋細胞の肥大に必須であるが、p38MAPKの活性化は心筋細胞肥大に関与していないことが判明した。
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