レプチンによる血管平滑筋細胞の遊走と増殖の制御機構

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10670657
• 研究機関: 神戸大学
• 研究代表者: 石川 雄一 神戸大学, 医学部, 教授 (90159707)
• 研究分担者: 川嶋 成乃亮 神戸大学, 医学部・附属病院, 講師 (10177678) ; 谷口 隆弘 神戸大学, 医学部・附属病院, 講師 (20263379)
• キーワード: 血管平滑筋細胞 / レプチン / OB-R / 増殖 / 細胞遊走 / 肥満 / 血管形成術後再挟窄 / 動脈硬化

研究概要

肥満は冠動脈疾患の危険因子の一つであるが、動脈硬化発症の血管細胞生物学的な機序は明らかとされていない。1994年に肥満遺伝子(ob遺伝子)がクローニングされ、その遺伝子産物であるレプチンは脂肪細胞から分泌され、肥満においてレプチンがホルモンとして作用していることが明らかとなった。本研究ではレプチンの血管平滑筋細胞に対する作用と、その細胞内シグナル伝達を解析した。ラット大動脈より酵素法により得た培養血管平滑筋細胞を用い、レプチン受容体であるOB-Rの発現を検討したところ、抗OB-R抗体によるイムノブロット及び免疫染色により複数のアイソフォームのOB-Rの発現を認めた。血管平滑筋細胞はレプチンによる刺激により濃度依存性に細胞数の増加を認め、さらにボイデンチャンバー法による細胞遊走活性の亢進も認めた。またレプチンによりERK1/2のMAP kinaseのリン酸化とリン酸化酵素活性が亢進し、また抗リン酸化チロシン抗体免疫沈降物中のPI 3-kinaseのリン酸化酵素活性亢進も認められた。PI 3-kinaseの特異的阻害薬であるwortomaninの前処置によりレプチンによる遊走亢進作用は完全に抑制された。以上の結果より血管平滑筋細胞には、レプチン受容体(OB-R)が発現しており、この受容体の活性化は、ERK1/2およびPI 3-kinaseの活性化を引き起こし、血管平滑筋細胞の増殖および遊走亢進を引き起こす事が明らかとなり、これらの作用を介して血管病変の発症、進展に関わることが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Akihiro Takahashi: "Tranilast inhibits vascular smooth muscle cell growth and intimal hyperplasia by induction of p21waf1/cip1/Sdi1 and p53"Circulation Risearch. 84. 543-550 (1999)
• [文献書誌] Tomosaburo Takahashi: "Acitivation of Akt/protein kinase B after stimulation with angiotensin II in vascular smooth muscle cells"American Journal of Physiology. 276. H1927-H1934 (1999)
• [文献書誌] Naoya Watanabe: "Elevated Remnant-Like Lipoprotein Particles in Impaired Glucose Tolerance and Type 2 Diabetic Patients"Diabetes Care. 22. 152-156 (1999)
• [文献書誌] Makoto Watanabe: "Immunohistochemical Analysis of Lipoprotein(a) Deposition and Inflammatory Cells in Coronary Atherosclerosis"Acta Histochem.Cytochem.. 31. 49-54 (1998)
• [文献書誌] A.Hijikata-Okunomiya: "Effect of Argatroban on Thrombin-induced Events in Cultured Vascular Smooth Muscle Cells"Thrombosis Research. 97. 257-262 (2000)
• [文献書誌] Yuichi Ishikawa: "The Plasma Levels of Leptin were Correlated with the Metabolic Cardiovascular Risk Factors such as Obesity and Dyslipidemias in Healthy Subjects"Bulletin of Health Sciences Kobe. 15. 21-25 (1999)
• [文献書誌] 谷口隆弘: "治療学"イコサペント酸エチルによる治療の意義. 4 (1999)
• [文献書誌] 石川雄一: "からだの科学"適正体重を考える. 5 (1999)