研究目的は副甲状腺ホルモン(PTH)の心血管作用の機序およびフラグメントの違いによる作用の違いをラット摘出灌流心を用いて検討することである。 1.PTHの陽性変時作用と各種受容体とのクロストークの検討。 α1-受容体遮断剤、β-受容体遮断剤、アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬、エンドセリン受容体拮抗薬はPTHの陽性変時作用に影響を及ぼさなかった。 2 PTHの陽性変時作用と細胞内シグナル、カルシウム電流、ペースメーカー電流(If)の関与の検討。 フォスフォリパーゼC阻害薬およびカルシウムチャネル遮断薬の前投与ではPTHの陽性変時作用は抑制されなかったが、アデニルシクラーゼ阻害薬およびペースメーカー電流(If)の阻害薬(CsCl)でほぼ完全に抑制された。 3.PTHによる心室筋および心房筋のcAMP濃度の変化の検討。 PTH投与によって心房筋においてcAMP濃度は有意に増加したが、心室筋においては変化を認めなかった。 4.PTHの陽性変時作用とフラグメント。 PTH(2-34)、PTH(3-34)、PTH(4-34)、PTH(7-34)、PTH(13-34)は陽性変時作用を示さず、PTH(1-34)のみが心拍数を増加させた。 5.PTHの血管拡張作用とフラグメント。 PTH(1-34)、PTH(2-34)、PTH(3-34)はPTH(1-84)と同様に冠動脈拡張作用を示したが、PTH(4-34)、PTH(7-34)、PTH(13-34)は示さなかった。 6.PTHの情報伝達系 プロテインキナーゼA阻害薬はPTHの心血管作用を抑制したが、プロテインキナーゼC阻害薬は抑制しなかった. 以上の結果より、PTHは他の受容体とのクロストークを介さず、心房PTH受容体を介しG蛋白-アデニルシクラーゼ系を活性化しcAMP濃度を増加させ、Ifを刺激することによって陽性変時作用を示すと考えられた。また、PTHの陽性変時作用にはN末端の1個のアミノ酸が、血管拡張作用にはN末端の3個のアミノ酸が必須であると考えられた。
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