研究概要 |
本年度は、肥大を惹起した心筋細胞にアポトーシスが存在するか否かを明らかにするため、以下に示すような急性圧負荷モデルおよび慢性圧負荷モデルを作成し、両者の関係を検討した。 (1) 急性圧負荷心において、心筋細胞にアポトーシスが惹起されるか否かを明らにするとともに、アポトーシス促進遺伝子p53,baxの発現変化をmRNAおよび蛋白レベルで検討した。10週齢の雄性Sprague-Dawleyラットを対象に、肺動脈狭窄を作成し、急性圧負荷モデルとした。術後1、2、4、7日後に心臓を摘出し、TUNEL法および免疫染色でアポトーシスの存在の有無を検討した。また、摘出心を右室、心室中隔、左室自由壁に3分割し、Northern blot解析を施行した。急性右室圧負荷心では、負荷直後の右室においてのみ心筋細胞にアポトーシスが惹起された。同時に、負荷直後の右室のみにp53およびbaxの発現亢進を認め、アポトーシス細胞とアポトーシス誘導因子の時間的、空間的局在の一致をみた。これらの結果より、急性圧負荷は心筋細胞におけるアポトーシスの誘導因子であること、また、急性圧負荷によるアポトーシス誘導にはp53,baxが重要な役割を演じている可能性が示唆された。 (2) 代償性心肥大から心不全に至る過程におけるアポトーシスの関与およびアポトーシス関連遺伝子の発現変化を慢性圧負荷モデルを用いて検討した。対象は12ヵ月および20ヵ月の高血圧自然発症ラット(SHR)およびWistar-Kyotoラットである。 心エコー図を記録後、観血的に血行動態諸指標を測定した。心臓は4%パラフォルムアルデヒドにて固定後、パラフィン切片を作成しTUNEL法を施行した。また、左室心筋よりAGPC法にて総RNAを抽出し、アポトーシス関連遺伝子(促進遺伝子としてbax、抑制遺伝子としてbcl-2,bcl-xL)の遺伝子発現変化をNorthern blot解析にて検討した。12ヵ月経過したSHRラットでは求心性肥大を呈し,20ヵ月経過したSHRラット(SHR-20)では心不全を呈していた。TUNEL法を用いた検討の結果、心不全期のSHR-20において、TUNEL陽性細胞を間質細胞に認めたが、心筋細胞には認めなかった。一方、アポトーシス関連遺伝子の発現に関して、baxは肥大期、心不全期を通じて不変であったが、bcl-xLは心不全期に2.6倍に増加した。bcl-xLは心不全期に上昇し、アポトーシス抑制の方向に作用するものと考えられた。不全心筋における間質細胞アポトーシスの重要性が示唆された.
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