研究概要 |
(1)肥大型心筋症からうっ血性心不全への移行の有無を明らかにする目的で平均12年経過観察している210名(女性68名、男性142名)の肥大型心筋症患者(初診時平均年齢:44歳)を対象に、心不全の発症頻度、心不全発症までの時間につき検討した。心肥大の変化の評価として心エコー図から心室中隔厚(IV ST),左室後壁厚(LVPWT),左室拡張末期径(LVDd)を、12誘導心電図からQRS電位の総和を計算した。さらに、(2)1988-1990年に血中心筋逸脱酵素の測定(CPK-MB)を行った60名の肥大型心筋症患者を対象にCPK-MBの測定が10年後の心不全発症予測因子になりうるか否かを検討した。 経過観察中、16名が典型的な肥大型心筋症から心不全を発症した。心不全の発症頻度は7.6%であり、発生頻度に男女差はなかった。心不全発症患者の初診から心不全発症までの時間は平均12年であった。心不全発症群のIVSTは21.5±3.5mmから11.0±1.9mmへ、LVPWTは12.8±2.2mmから9.3±1.1mmへと減少した。LVDdは43.5±5.7mmから56.5±7.2mmへと拡大、QRS電位の総和は35.2±11.4mVから18.0±4.1mVへと著しく減少した。心不全非発症群のIVST、LVPWTも有意の減少、LVDdは有意の増加、12誘導QRS電位の総和は著しい減少を示した。さらに、心不全非発症群のQRS電位の総和が経過中50%以上減少した患者は約60%存在した。CPK-MB測定10年後の心不全の発症はCPK-MBが正常であった患者群(37名)では1名(5%)であったのに対し、異常高値を示した患者群(23名)では12名(52%)であった。 以上の結果は肥大型心筋症からうっ血性心不全への移行の頻度は高く心不全は本症の予後を左右する重大な要因であるとともに、心筋逸脱酵素の測定は心不全の発症予測因子に成りうることを示している。
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