1.10週齢の雄性Sprague-Dawleyラットを対象に、肺動脈狭窄を作成し、急性圧負荷モデルとし、心筋細胞にアポトーシスが惹起されるか否かを検討した。結論として、急性圧負荷は心筋細胞におけるアポトーシスの誘導因子であること、また、急性圧負荷によるアポトーシス誘導にはp53、baxが重要な役割を演じている可能性が示された。 2.心肥大から心不全に至る過程におけるアポトーシスの関与およびアポトーシス関連遺伝子の発現変化を高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて検討した。12ヶ月のSHRラットは球心性肥大を、20ヶ月のSHRラットは心不全を呈していた。20ヶ月のSHRラットではTUNEL陽性細胞を間質細胞に認めたが、心筋細胞には認めなかった。一方、アポトーシス関連遺伝子の発現に関して、baxは肥大期、心不全期を通じて不変であったが、bcl-xLは心不全期に2.6倍に増加しており、アポトーシスを抑制しているものと考えられた。また、不全心筋における間質細胞アポトーシスの重要性が示唆された。 3.肥大型心筋症から心不全への移行の有無を明らかにする目的で210名の肥大型心筋症患者(初診時平均年齢:44歳、観察期間:12年)を対象に、心不全の発症頻度、心不全発症までの時間につき検討した。さらに、1988年に血中心筋逸脱酵素の測定(CPK-MB)を行った60名の患者を対象にCPK-MBの測定が10年後の心不全発症予測因子になりうるか否かを検討した。経過観察中、16名(7.6%)が心不全を発症した。心不全発症患者の初診から心不全発症までの時間は平均12年であった。CPK-MB測定10年後の心不全の発症はCPK-MB正常群(37名)では1名(5%)、高値群(23名)では12名(52%)であった。以上より、肥大型心筋症から心不全発症の頻度は高く、予後を左右する重大な要因である。また、心筋逸脱酵素の測定は心不全の発症予測因子に成りうる。
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