NO合成酵素(NOS)は血管内皮細胞に特異的に発現しており、生成される一酸化窒素(NO)すなわち内皮細胞由来弛緩因子(EDRF)が血管弛緩等の作用を起こしている。 NO合成酵素遺伝子上流域にあるGATA転写因子による活性化が報告されているが、我々の系では、この因子による活性化は認められず、むしろ、上流90bpに、Sp1結合配列以外に転写に関与する新しい領域を見いだした。この上流90bpにあるCCCTC配列を3回含むホモピリミヂン鎖領域が結合に必須であることがわかった。しかも、この結合には、3つのCCCTC配列すべてが必要で、1つでも欠けると、結合能が著しく低下することが、ゲルシフトアッセイ法によって解った。そして、転写活性は、結合能を反映し、CCCTC配列の変異によって低下することがわかった。DNaseIフットプリント法により、Sp1結合配列から-16まで、約92bpという長い領域が連続して保護されていることが判明した。 UV-クロスリンク法によって97kDaのタンパクを同定し、臍帯内皮細胞由来のcDNAの発現ライブラリーをスクリーニングすることで、クローンした結果、Sp1因子のクローンが得られた。しかし、この結合領域に結合する主なタンパク因子は、SP1ではないことが解っているため、さらに、サウスウエスタン法を用いて、そのエレメントに結合する蛋白質因子を解析し、60および39kDaの主要なタンパクを同定した。これらのタンパクの解析を進めるためにあらたにcDNAライブラリーをスクリーニングしたが、ポジティブなクローンは得られなかった。 CCCTC配列を3回含むホモピリミヂン鎖領域にかなりの類似性のある配列が、c-myc遺伝子のプロモータ領域にある。そこに結合する転写因子として、CTCF、MAZが報告されている。これらに対する、抗体を用いて、ゲルシフトアッセイを行ったが、特異的な複合体の阻害などは検出されなかった。MAZ因子が、NO合成酵素遺伝子の転写に関写するという報告がなされているが、はっきりしない。 また、我々は、HlV(human immunodeficiency virus)のtat因子によって、NOS遺伝子のプロモーター活性は上昇することを見いだした。この活性上昇には、従来よく知られている転写因子NF-κBが関与すると思われていたが、Sp1結合配列およびこの上流90bpが関与することを明らかにした(Chen et al.1999)。
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