TEF-1ファミリーはSV40などのウイルスエンハンサーに結合してその転写を活性化することが知られているが、筋特異的遺伝子の調節領域に存在するM-CATモチーフにも結合し、またTEF-1変異マウスでは心形成異常のため致死となることから、心筋や血管平滑筋細胞の分化や心血管系の病態の成り立ち、中でも心肥大や動脈硬化に伴う遺伝子発現の変化にも関与していると予測される。我々はETF、ETFR-1、およびETFR-2を見いだして、哺乳類に4種類のTEF-1ファミリーが存在することを明らかにした。本研究では、マウスの発生過程や成体各組織、種々の培養細胞でのこれらの発現を解析した。培養細胞の心筋、骨格筋分化の実験系において分化にともなうETFR-2の発現上昇を観察したことから、マウスのETFR-2遺伝子DNAを単離して、その5'側領域の発現調節活性をルシフェラーゼレポーター遺伝子を用いて解析した。また、生体においては動脈硬化を促進すると考えられるPDGFやアンギオテンシンIIが培養血管平滑筋細胞においてはその増殖を促すとともにETFR-2mRNAを増加させ、この現象にはMAPキナーゼを介する細胞内信号伝達系が重要であることを明らかにした。一方、TEF-1ファミリーによる転写調節の分子機構について、最近ショウジョウバエの翅の形態形成において明らかにされたTEF-1ホモログであるScallopedとVestigial蛋白の相互作用を手がかりとして、Vestigialと一部アミノ酸配列が一致する噛乳類の蛋白のcDNA単離を試み、307アミノ酸残基からなるマウスVestigial関連因子(mVRF)の全構造を明らかにした。さらにmVRFはN末端側の狭い領域でのみVestigialとの相同性を示し、この部分がTEF-1ファミリーとの相互作用に携わることを明らかにした。
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