研究概要 |
我々はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる心・血管への遺伝子導入法の確率、さらに内皮型NO合成酵素(ecNOS)遺伝子導入による肺高血圧・心肥大の遺伝子治療法の開発を目指して研究を進めてきた。平成10-11年度の文部省科学研究費補助により、以下のような研究成果が得られた。 (1)AAVベクターによる心・血管への遺伝子導入 LacZ遺伝子を組み込んだβ-galactosidase発現ベクター(AAV-LacZ)を作製した。このAAV-LacZを用い、血管・心筋組織への遺伝子導入が高率に可能であること、さらに導入したLacZ遺伝子は3ヵ月以上の長期にわたり発現が持続することを観察した。 (2)ecNOS発現ベクターの作製 ecNOS遺伝子を組み込んだAAVベクター(AAV-ecNOS)を作製し、ヒト293細胞へ導入した。293細胞へecNOS遺伝子を導入することにより、293細胞のMAPキナーゼ活性およびc-fosの発現は有意に抑制され、これに伴い293細胞のDNA合成能も有意に抑制された。(J Pharmacol Exp Ther 292: 387-393,2000)。 (3)心筋肥大に対するecNOS遺伝子導入の効果 ラット培養心筋細胞にAAV-ecNOSを遺伝子導入した。遺伝子導入した心筋細胞では細胞内cGMPの上昇が認められ、またphenylephrine刺激による心筋細胞の肥大反応が有意に抑制された。さらに、ecNOS遺伝子導入に心肥大抑制作用は、NOS阻害剤であるL-NMMA存在下で完全に消失した。 以上の研究成果より、AAVベクターを用いたecNOSの心・血管への遺伝子導入が、肺高血圧・心肥大の新しい治療法として有用である可能性が明らかとなった。
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