脳性利尿ペプチド(BNP)は利尿作用、血管拡張作用等があり、心不全例では代償機転として働く。心筋梗塞急性期にも血漿BNP値が上昇し、重症度が高ければ血漿BNP値がより上昇すると考えられるが、発症早期にBNPが充分分秘された例では、左室再構築が抑制される可能性がある。本研究では、当院CCUに搬送された初回心筋梗塞患者連続223例中177例で急性期のBNPを測定し、138例で発症後14日目の心エコーを実施した。発症後1年目の心エコーは86例に実施した。急性期のいずれかのBNP値と左室再構築のデータを有する症例は63例(平均年令60±10才)であった。急性期BNP値はいずれも発症14日目に心エコーにて記録した急性期左室駆出率とr=-0.274〜-0.359、また、発症1年後の慢性期左室駆出率とはr=-0.255〜-0.304の有意な相関を認めた。発症1年後の左室拡張率と定義した左室再構築は、年令、梗塞部位、急性期再潅流療法の施行、ACE阻害剤の服用の有無、発症14日目の左室駆出率を共変量とし、発症3、7、14日目の血漿BNP濃度と左室再構築の関係についてそれぞれ別のモデルで重回帰分析により検討した。その結果、急性期のいずれの時点のBNP値も左室再構築と有意な関与は認められなかった。従って、急性期の高BNP濃度がその作用により将来の左室再構築を抑制するということは認められなかった。逆に、急性期の高BNP値が将来の左室再構築を予測するということも否定的であった。即ち、心筋逸脱酵素が高値であることが広範囲な梗塞を反映し、そのことによって単純に将来の左室再構築を予測するのとは違って、広範囲な梗塞でBNPは高値を示したが、BNP自身の減負荷作用で左室再構築促進が相殺されたため、急性期BNP高値は左室再構築を抑制せず、将来の左室再構築の予測もしなかったと考えた。
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