研究概要 |
ACE阻害薬の心臓保護作用の機序のひとつとして局所キニン分解阻害作用によると考えられているが、心臓におけるキニン産生酵素は同定はされてなかった。今回、我々は犬心筋から組織カリクレイン様酵素の精製を行い、この酵素が分子量約6万5千の糖蛋白で,キニン産生のみならずアンジオテンシン(Ang)IをAngIIに変換する活性を有することを明らかにした。我々は以前、降圧系酵素である組織カリクレインがキニン産生のみならず、AngIをAngIIに変換するという事実を明らかにし、キニン・テンシン系と命名した。この酵素もこの系に属する。心臓内や他臓器の存在をWestern blotで検討した結果、犬心臓内では両心房、両心室、冠動脈に、他臓器では胸部大動脈、腎臓、膵臓、小腸、骨格筋、にその存在を認めた。しかも今回精製した酵素(65KDa)は分子量が既知の犬膵臓カリクレイン(38KDa)や犬尿カリクレイン(40.5KDa)と差異を認めた。N末端部分アミノ酸配列の決定をしようとしたが、N末端がブロックされていた。そこで犬心臓や腎臓から精製した酵素が自己融解した後にPVDF膜に転写し一部分解したバンドを切り出してアミノ酸シークエンスを行った。その結果現時点で、既知の酵素とは異なる部分アミノ酸配列を得ることができた。更に犬尿からカリクレイン様酵素の精製をした結果、心臓由来のものと分子量が一致した。また細胞内の局在をみるために、心臓や腎臓などのホモジネートを細胞質分画と膜分画にわけその存在を検討した結果、両分画に存在していた。以上のことから、この新規の酵素は心臓のみならず、血管や腎臓などに存在しキニン産生やAngII産生に関与することが明らかになった。今後この酵素のクローニングを行い、病態生化学的意義を解明したい。
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