研究概要 |
現在、心不全や心筋梗塞後の予後を改善させるとして臨床的に評価の高いアンジオテンシン変換酵素阻害薬の心臓保護作用の機序のひとつとして局所キニン分解阻害が考えられている。しかしながら、心臓におけるキニン産生系は不明で、キニン産生酵素は同定はされてなかった。我々は犬心筋から組織カリクレイン様酵素の精製を行い、この酵素が分子量約6万5千の糖蛋白で,キニン産生のみならずアンジオテンシン(Ang)IをAngIIに変換する活性を有することを明らかにした(J Hypertens 15:675-682,1997)。我々は以前、降圧系酵素である組織カリクレインがキニン産生のみならず、AngIをAngIIに変換するという事実を明らかにし、キニン・テンシン系と命名した。この酵素もこの系に属する。その存在をWestern blotで検討した結果、犬心臓以外に胸部大動脈、腎臓、膵臓、小腸、骨格筋にその存在を認めた。しかも今回精製した酵素(65KDa)は分子量が既知の犬膵臓カリクレイン(38KDa)や犬尿カリクレイン(40.5KDa)と差異を認めた。N末端部分アミノ酸配列の決定をしようとしたが、N末端がブロックされていた。そこで犬心臓や腎臓から精製した酵素が自己融解した後にPVDF膜に転写し一部分解したバンドを切り出してアミノ酸シークエンスを行った。分析したアミノ酸部分配列の3個は、それぞれ既知のキニン産生酵素とは異なっていた。部分配列からミックスドプライマーを作製し、別途準備した犬心臓からのcDNAライブラリーを鋳型としてクローニングをはじめ、現在とれた遺伝子の配列分析の最中である。この新規の酵素は心臓のみならず、血管や腎臓などに存在しキニン産生やAngII産生に関与すると考えられる。
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