G蛋白連関受容体を介する心血管細胞のJAK-STAT系活性化機構とその役割

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10670695
• 研究機関: 国立循環器病センター
• 研究代表者: 笹栗 俊之 国立循環器病センター研究所, バイオサイエンス部, 室長 (30261209)
• キーワード: 血管平滑筋 / 交感神経 / アドレナリン / α受容体 / Jak / STAT / チロシンリン酸化 / 細胞肥大

研究概要

α_1アドレナリン受容体の情報伝達にJak-STAT系が関与するかどうか検討するため、G_0期に同調したヒト臍帯動脈平滑筋細胞をα_1アゴニストのフェニレフリンで刺激して蛋白を抽出し、各種抗体で免疫沈降させてウエスタンブロットを行った。フェニレフリンは、Jak2とTyk2のチロシンリン酸化を促進した。これらはα_1受容体拮抗薬プラゾシンで抑制され、またα_<1B>受容体に特異性の高い不可逆的α_1受容体アルキル化薬クロルエチルクロニジンで強く抑制されたが、α_<1A>受容体に特異性の高いWB4101では抑制されなかった。またフェニレフリンはSTAT1のチロシンリン酸化を促進し、これらはプラゾシンおよびJak2阻害薬AG490によって抑制された。フェニレフリン刺激後にはα_<1B>受容体とJak2、およびα_<1B>受容体とSTAT1が会合することがわかった。
また、STATのDNA結合活性をみるため、フェニレフリン刺激後の核蛋白抽出液を用いてゲルシフトアッセイを行った。フェニレフリンで刺激するとSTAT1のDNA結合活性が上昇し、これはα_1受容体拮抗薬により抑制された。しかし、STAT3のDNA結合活性は上昇しなかった。
次に、α_1受容体刺激による平滑筋細胞肥大にJak-STAT系が関与する可能性を検討した。フェニレフリンはロイシン取り込みを促進したが、プラゾシン、AG490、STAT1認識配列を含むDNAデコイの導入はこれを抑制した。しかしSTAT3のデコイは無効だった。
以上より、アドレナリンα_1受容体はJak2/Tyk2-STAT1の活性化により核ヘシグナルを伝達し、細胞肥大に寄与する可能性が示唆された。アンギオテンシンII、エンドセリン1、トロンビンもJak2/Tyk2をリン酸化することから、Jak-STAT系はG蛋白連関受容体に普遍的に共役している可能性が高いと考えられた。

研究成果

• [文献書誌] Bhuiyan, Z. A. et al.: "Functional analysis of the p57^<KIP2> gene mutation in Beckwith-Wiedemann syndrome"Hum. Genet.. 104. 205-210 (1999)
• [文献書誌] Ishida, A. et al.: "Tumor suppressor p53 but not cGMP mediates NO-induced expression of p21^<Sd1/Cip1/Waf1> in vascular smooth muscle cells"Mol. Pharmacol.. 56. 938-946 (1999)
• [文献書誌] Miwa, Y. et al.: "Differentiation-inducing factor-1, a morphogen of Dictyostelium, induces G_1, arrest and differentiation of vascular smooth muscle cells"Circ. Res.. 86. 68-75 (2000)
• [文献書誌] Sasaguri, T. et al.: "Linkage between α_1 adrenergic receptor and the Jak/STAT signaling pathway in vascular smooth muscle cells"Biochem. Biophys. Res. commun.. 268. 25-30 (2000)
• [文献書誌] Akimoto, S. et al.: "Laminar shear stress inhibits vascular endothelial cell proliferation by inducing cyclin-dependent kinase inhibitor p21^<Sdi1/Cip1/Waf1>"Circ. Res.. 86. 185-190 (2000)
• [文献書誌] Taba, Y. et al.: "Fluid shear stress induces lipocalin-type prostaglandin D_2 synthase expression in vascular endothelial cells"Circ. Res.. (in press). (2000)