研究概要 |
[背景]最近、私たちは母体由来のHAMAが経胎盤的に胎児に移行したためにTSHが見かけ上高値となり、クレチン症マス・スクリーニング陽性となった新生児を経験した。 [目的]クレチン症マス・スクリーニングの落とし穴として、母由来の抗マウス抗体による偽高TSH血症が少なからず存在することを明らかにする。 [方法]クレチン症マス・スクリーニング、あるいは近年行われ始めた妊婦甲状腺機能スクリーニングでTSHが高値でFree T4が正常値を呈した母児を対象として、human antimouse antibody(HAMA)の関与について検討する。対象者の血清をprotein A処理、免疫グロブリンによる吸収試験、ゲルろ過HPLCによる分子量の定量、マウス抗体あるいはヤギ抗体を用いた複数のTSH測定キットで測定値の比較を行う。 [結果]血中TSHのみ高値で、T3,T4が正常のマス・スクリーニング陽性例を2例経験した。いずれもクレチン症を示す身体所見はなかった(TSHの単位はμU/ml)。症例1:生後6日目の濾紙血TSH57.7。生後8ヶ月でTSH17.9。母のTSH>100。症例2:生後6日目の濾紙血TSH33.4。生後3ヶ月で11.2。母の血清TSH62.1。症例1、2の母児の血清は、一次抗体、二次抗体ともにマウス抗体を用いたELISAでTSH高値,一次抗体マウス抗体、二次抗体ヤギ抗体を用いたEIAで測定値の低下がみられた。また、抗ヒトIgG血清添加によりTSH値は低下し、ゲルろ過HPLCで患児のTSHはIgGの分子量150,000のピークに一致して溶出された。これより、母体由来のHAMAによる見かけ上の高TSH血症であると判定した。[結語]クレチン症マス・スクリーニングのpitfallとして、「乳児一過性高TSH血症」と類似した臨床経過をとるhuman antimouse antibody(HAMA)の胎盤移行に留意すべきである。
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