[目的]われわれは平成10年度の本研究においてhuman antimouse antibody(HAMA)の胎盤移行による偽高TSH血症の病態を、平成11年度の本研究においてはそれと類似した検査結果を呈する抗TSH抗体による偽高TSH血症を報告した。これらの病態は新生児マス・スクリーニングにおいて過剰治療の原因となるために適切に診断される必要があるが、その具体的な対策は個々の自治体に任されており、実態さえ不明である。そこで本年度は全国の新生児マス・スクリーニングにおいて偽高TSH血症がどの程度存在するのかを調査した。 [方法]偽高TSH血症を疑う契機は母親の高TSH血症、患児の一過性高TSH血症である。そこでTSH測定を担当している、全国の施設にアンケート調査を実施した。アンケートにおいてマス・スクリーニング受検者数、受検率、クレチン症と診断された例数、一過性甲状腺機能低下症と診断された例数、一過性高TSH血症と診断された例数を質問した。またそれらのなかで偽高TSH血症と確定した症例については第何子か、初回TSH測定値、干渉物質名と母親年齢を記載してもらうようにした。 [結果]新生児マス・スクリーニング実施主体である全国都道府県および政令指定都市に対してアンケートを送付し、2月末時点で25自治体から回答があった。しかしながらTSHを測定する検査センターが一過性高TSH血症と診断された症例について詳細な情報を持っている自治体がほとんどなく、唯一TSH測定系に干渉する物質が存在することを疑わせる例が3例あったのみである。これらはいずれもTSH測定キットの変更によりTSH低値を確認したものである。 [結語]現在の新生児マス・スクリーニング体制においては検査機関から各症例に辿ることが困難であることが判明した。初期の目的である偽高TSH血症の頻度推定と症例の追跡は困難であった。
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