研究概要 |
新生児マススクリーニングの実施により、クレチン症が早期発見され、予後が大きく改善している。しかし一方では偽陽性によって過剰に治療されている小児がいることも無視はできない。われわれは母体由来のhuman anti-mouse antibody(HAMA)が胎児に移行したためにTSHが見かけ上高値となり、陽性となった新生児を2例経験した。これらの母児の血清は、一次、二次抗体ともにマウス抗体を用いたELISAでTSH高値、一次抗体にはマウス抗体を、二次抗体にはヤギ抗体を用いたEIAでは測定値の低下を認めた。また抗ヒトlgG血清添加によりTSH高値は消失し、ゲルろ過HPLCで患児のTSHはlgGの分子量150,000のピークに一致して溶出された。 このほかに経胎盤的に移行した抗TSH抗体による見かけ上の高TSH血症を経験した。この症例における血清TSH溶出プロフィールをみるとTSH分子量に一致するピークの他にlgGの分子量の近傍にもピークを認めた。血清を酸性緩衝液で透析した後にゲルろ過HPLCを行って、lgG分画を抽出し、ヒトTSHとの結合率をみると37.2%であった。 このような偽高TSH血症の実態を明らかにするために、新生児マススクリーニングにおける甲状腺機能異常者の頻度を調査した。54.2%の自治体から回答があった。このなかから先天性甲状腺機能低下症として各実施機関に報告された症例は130名から234名であった。これは3103〜5562人にひとりの割合となる。 一方偽高TSH血症とされる例に関しては多い年で7例め報告がある。しかし詳細は把握されておらず、報告内容からTSH測定系に影響を与える物質の存在が疑われる症例は10年間で3例しか過ぎない。 以上より偽高TSH血症を呈する症例は存在はするものの検査実施機関のレベルでは把握が困難であると結論した。
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