研究概要 |
心筋緻密層形成不全(INCVM)は、胎児心筋の遺残による心筋症で、遺伝的背景を有する新しい疾患概念であるが、本邦でも欧米の症例でもその遺伝形式には不明な点が多い。これまでの欧米からの報告では、X-linked infantile cardiomyopathyやBarth症候群に見られるX染色体上の遺伝子異常(G4.5)が責任遺伝子の一つとして報告され、そのためINCVMは、Barth症候群とallelicとされている。本研究では、このG4.5に着目し、本邦の全国調査で診断された症例を基に、新しい疾患概念としてのINCVMの遺伝的背景の検索と、遺伝子異常を明らかにすることを目的とした。我々が実施した全国調査では、小児循環器科を有する15施設より27例のINCVMが報告され、約40%に家族歴が認められ、4家系に濃厚な家族内集積が認められた。これまでの欧米の報告と異なり、家族歴を有する患者の約半数は女性で、これまでに報告されていない優性遺伝形式が疑われる家系もあり、この疾患の遺伝形式の多様性が判明した。本邦の全国調査で、その臨床像と遺伝的多様性についてはすでに報告した(JAm Coll Cardiol 1999 34:233-40,1999)。本研究では、全国調査により報告された27例の患者において、末梢血リンパ球を採取しEBウィルスを用い細胞株を作製し、これら株化細胞からDNA遺伝子を抽出しG4.5遺伝子異常を検索した。遺伝子解析には、主にPCR-SSCP(single strand comformation polymorphism)analysisとDNA suquencingの方法を用いて行った。その結果、1例に正常多型が認められた他は、すべてG4.5遺伝子異常は認められなかった。心筋緻密層形成不全には遺伝的多様性があり、これまでの報告されたX染色体上の遺伝子異常であるG4.5以外にも責任遺伝子が存在することが示唆された。
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