研究概要 |
ヒトの脳の髄鞘化における髄鞘蛋白の役割を解明するため、髄鞘が免疫学的に攻撃を受けて発症する実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)において、どのような自己抗体が脱髄に重要であるかという点について研究した。ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)はミエリン膜の最外層に突出し、自己免疫反応による攻撃を受けやすく、多発性硬化症などの脱髄性神経疾患のターゲットと考えられている。このMOGの脳炎起炎性蛋白(MOG35-55)を作成してNODマウスに感作し、EAEを誘導した。この動物実験モデルは急性進行型、寛解再発型、一過性完全寛解型などの種々の臨床症状を呈する脱髄疾患を発症した。これらの臨床症状と感作したMOG35-55蛋白に対する抗体産生との関連について研究したところ、重症型で死に至る場合IgG2b抗体が上昇し、軽症型で寛解する場合IgG2b抗体が産生されないことが明らかになった。その他のIgGサブクラス抗体あるいはIgA,IgM抗体と臨床症状との間には関連はみられなかった。髄鞘蛋白に対する抗体のサブクラスの違いにより、その抗体によって攻撃されて生じる脱髄のメカニズムが異なることは、抗ミエリン蛋白抗体を妊娠ラットに投与して作成する髄鞘化障害モデルラットにおいて、投与する抗体の性質の違いにより異なる臨床症状および病理像の髄鞘化障害がおこることが予想され、胎児、新生児の脳の髄鞘化のメカニズムの解明に結びつくものと思われる。
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