ヒトの脳の髄鞘化は胎児期から新生児期にかけて進行し、小児の発達に関わる重要な脳の形態の変化である。しかし髄鞘化における髄鞘蛋白の役割は以前としてよく知られていない。ヒトの脳の髄鞘化における髄鞘蛋白の役割を解明するため、髄鞘が免疫学的に攻撃を受けて発症する実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)において、どのような免疫学的あるいは血液学的メカニズムが脱髄やその後の再髄鞘化に重要であるかという点について研究した。ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)はオリゴデンドロサイトの成熟に伴ってその膜表面に出現し、髄鞘化に関わっている可能性があり、また一方で実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)における脳炎起炎抗原としても知られている。本研究ではMOG蛋白によって誘導されるEAEにおけるサイトカインの役割、臨床症状と産生される抗体との関連についての研究およびEAE発症における凝固線溶系の関わりについての研究を行った。このEAEは寛解再発型のヒト多発性硬化症によく似た脱髄性疾患であり、その発症には内因性のIL-12の感作した抗原に対するIgG2b抗体が症状の重症化に深く関わっていることが明らかになった。また症状の悪化に合わせてトロンビン―アンチトロンビンIII複合体の上昇がみられ、脱髄性疾患の病態に凝固線溶系も深く関わっている可能性が示唆された。これらの研究はMOGの機能について明らかにすることに繋がり、胎児、新生児の脳の髄鞘化のメカニズムの解明に結びつくものと思われる。
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