研究概要 |
平成11年度の研究において、我々はラット小型肝細胞の長期間培養用に考案された培地(1996,Tateno et al.)にFe、Zn、Cuを添加し、8週間以上にわたって肝細胞由来の形質を維持して培養可能な培地条件を決定した。本培地でラット肝細胞の初代培養を行い、4〜8週間にわたって培養細胞が肝細胞マーカー(CK8,AFP,Albumin)を安定して発現しており、そのうち一部の細胞が胆管上皮系のマーカーであるCK19を発現することを確認した。このCK19の発現陽性率は培養期間とともに変化し、培養開始から1週間目に20%、2週間目に25%、3週間目に33%、4週間目には41%に増加した。 このラット培養肝細胞の経時的形質変化に伴うJagged1mRNAの発現およびその変化について検討を行っている。この検討においてもRT-PCRレベルでは発現が確認されるが、northern blotではシグナルは検出されなかった。これについてはより感度の高い検出方法としてRNase protection assay、あるいはin situ hybridizationで検討する必要があるが、現時点ではまだ試行できていない。 一方、我々は先年よりの研究においてthrombospondin-1(TSP)が胆道閉鎖症の線維化肝に高発現していることを示し、TSPおよびTGF-βとその受容体の病理組織中での局在から、肝の病理においてTSPがTGF-βの活性化を介して偽胆管増生および線維化に促進的な役割を果たしている可能性を示して報告した(AmJ Pathol,in revise)。これに基づいて上記の培養系においてTGF-β(10ng/ml)を培地に添加して培養肝細胞の形質変化を観察したところ、4週目までのCK19の発現陽性率が対照群に比して増加し、CK18およびalbuminの発現強度の増加が認められた。現在、TSPが潜在型TGF-βの主要な活性化因子であることに着目し、その活性化ドメインに拮抗する抑制ペプチドを上記培養系に添加、あるいは発現させることによりCK19の発現率に変化が見られるかどうかについて実験を進めている。
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