本研究は認知課題下における脳の活性化状態を知るという認知神経心理学的検討のために、以下の3つの観点から同時進行の形で行われている。 1つは、学習障害児の診断を簡便かつ確実に行うための心理学的検討である。本年度は特異的読字障害児5名の神経心理学的特徴についてまとめ、論文として報告した。とくにトークンテストが、「聞いたら分かるが、読むと分からない」という状態を端的に反映していることを述べた。現在、トークンテストの実用性を高めるために、健常児集団(187名)での得点分布を調査している。 2つめは、脳の機能障害を調べるための神経生理学的検討である。上述した5症例の安静時脳波記録から、脳波の二次解析法である脳波コヒーレンスの検討を行い、健常児群よりも大脳半球内コヒーレンスが有意に高いという結果を得た。この解釈として、学習障害児では脳内の非機能単位相互の連絡性が高いのではないかという仮説を提唱した。現在、読字という認知課題下で脳波記録を行い、課題負荷時の脳波について検討中である。健常成人群では、読字課題によりβ周波数帯域における左右大脳半球のコヒーレンスが有意に上昇すること、および後頭部と後側頭部とのコヒーレンスが上昇することが判明した。次の段階として、健常児群および学習障害児群での検査を実施し、比較検討する予定である。 3つめは、脳の機能解剖との対応を調べるための検討である。現在、読字課題下における脳の活性化状態を脳の局所との対応関係で調べるために、上記の特異的読字障害児5名の機能的MRI法による解析を行っている。対照として行った健常児の検査では、読字課題下において左大脳半球中側頭回が活性化されることが判明している。さらに症例数を増やして、疾患群としての特徴を明らかにする予定である。
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