ヒトカリシウイルス(HuCV;SRSVも同義語)は遺伝子学的に大きく3つの群、genogroup I(GI; NV群)、genogroup II(GII; SMV群)、genogroup III(GIII;SV群)に分類されている。 1984年から1989年にかけて、札幌市と松山市の小児下痢症から採取され、電顕でSRSVが陽性であった糞便155検体をEIA法で検索すると、MXV(GII)は2検体(1.3%)、NV(GI)は1検体(0.6%)、SV(GIII)は18検体(8.0%)のみが陽性であった。1986年以降、小樽市の乳児院で発生した急性胃腸炎の23流行では、MXVによる1流行のみであった。愛知県で1987年から1991年に発生した、主に成人の18流行では、MXVが1流行、NVが3流行にみられた。 一方、日本におけるMXVに対する年齢別抗体保有率は、3歳以降に感染機会が高まり、成人以降の高い抗体保有率から、普遍的な感染症であることが示唆された。東南アジアにおいてもMXVに対する抗体保有率は80%以上と高値であった。高い抗体保有率とくらべて、糞便中の抗原検出率が低い理由としては、RT-PCR法によるウイルス核酸の検出率が高いことから、EIA法の特異性が高すぎることが考えられた。 ケニアの小児期の急性胃腸炎患児の糞便をNV、MXV、SVに対するEIA法で検討すると、陽性率はSVの2.2%が最高でNV、MXVはほとんど検出されなかった。しかし、3群のHuCVに対する年齢別抗体保有率をみると、1歳以降には全ての群に対して感染機会が高まり、日本よりも早期に3群のHuCVに感染することが示唆された。この矛盾の理由は日本と同様のことが考えられる。MXV、SVに対しては12歳以降は80%以上の抗体保有率となるが、NVに対しては1歳以降成人期をとおして60%前後で推移し、その免疫応答の違いが示唆された。
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