カリシウイルス科に属するウイルスは1999年のICTVの新しい国際分類により4つの属に分類され、ヒトにおいてはNorwalk-like viruses属とSapporo-like viruses属の二つとなった。それぞれの代表ウイルス種はNorwalk virus(NV)とSapporo virus(SV)で、NVはさらに遺伝学的にgenogroupI(GI;NV68)とgenogroup(GII;SMV)に分かれる。 本年度は、小児の急性胃腸炎の集団発生例および散発例を対象に、NVおよびSVに属するウイルスをRT-PCR法にて検出し、その産物をSouthern blot hybridization法により同定した。1976年から1995年までに札幌市の乳児院において発生した、非細菌性胃腸炎の集団発生36流行の病原ウイルスの検索では、カリシウイルス科に属するNVおよびSVが15流行(42%)と、A群ロタウイルスの10流行(28%)よりも多いことが判明した。また、腸管アデノウイルス及びアストロウイルスはそれぞれ3流行(8%)と2流行(6%)であった。すなわち、札幌市の一乳児院における観察ではあるが、カリシウイルス科に属するウイルスが乳幼児の非細菌性胃腸炎のもっとも頻度の高い原因ウイルスであった。 小児科外来を受診した小児の散発性胃腸炎の分析でも、原因のウイルスとしてカリシウイルス科に属するNVおよびSVがA群ロタウイルスに匹敵するとの結果が得られつつある。フィンランドのタンペレ大学医学部との共同研究では、A群ロタウイルスによるものが28%であるのに対して、NVによるものが20%、SVによるものが少なくとも5%でカリシウイルス科に属するウイルスによるものの合計は25%である。また、同じ対象においてアストロウイルスは9%腸管アデノウイルスは6%であった。すなわち、集団発生のみならず散発性胃腸炎においてもカリシウイルス科に属するウイルスの重要性が示唆された。
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