私達はMAPキナーゼファミリーの中でERK、p38はラット腎発生初期に発現が強く、JNKは逆に成熟腎で最も多いことを報告した。また、ERK発現は空間的にも腎の発達と一致することを明らかにした。すなわち胎生期には増殖の盛んな(PCNA染色により同定)間葉細胞、尿管芽細胞に強く発現、発達に伴いネフロン原基の形成されるnephrogenic zoneに強く発現する。尿細管の発達する新生児期には皮質深部、髄質にERKの発現が移動する。一方、p38はアポトーシスを媒介することが知られており、腎発生においても増殖と共に広汎なアポトーシスが生じている。そこでp38の発現とTUNEL染色によるアポトーシスの相関を検討した。予想に反し、p38発現部位はアポトーシスと一致せず、むしろPCNA染色陽性部位と相関を示した。以上の結果から、ERK、p38は腎発生初期の細胞増殖分化に関与することが示された。 ERK、p38の機能的意義を検討するため、胎生14-15日のラット腎をERK、p38の阻害剤の存在下で培養した。ERK阻害により腎サイズは90%に減少、糸球体形成の減少、尿管芽の狭小化が見られた。p38阻害下では腎サイズは70%に減少、糸球体形成は全く認められなかったが、尿管芽形成には著変なかった。TUNEL陽性細胞はERK阻害で若干、p38阻害で著明に増加した。PCNA陽性細胞はERK阻害では対照と差がなかったが、p38阻害により減弱した。以上の結果からERK、p38は腎発達に必要であり、特にERKは尿管芽の成長に、p38は糸球体形成に関与することが示唆された。
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