MAPキナーゼは細胞内情報伝達の中枢を担う酵素で、extracellular-regulated kinase(ERK)は増殖・分化に、p38 MAP kinase(p38)、c-Jun N-terminal kinase(JNK)はストレス応答、アポトーシスに関与する。私たちはERK、p38が腎発生に重要な役割を担っていることを前年度までの研究で明らかにした。一方JNKは成熟腎に発現し、後期の分化に関与していると考えられる。本年度は腎発生異常におけるMAPキナーゼの役割を検討した。 1.多嚢胞性異形成腎におけるMAPキナーゼの発現 胎生19週-2歳のヒト多嚢胞性異形成腎パラフィン切片を材料に、MAPキナーゼの免疫組織染色および増殖、アポトーシスのマーカーPCNA、TUNEL染色を行った。増殖のさかんな嚢胞壁および異形成尿細管上皮細胞にはp38が異所性に発現し、ERK発現も正常対照腎に比し増加していた。ERK、p38の活性型も強く検出された。一方、増殖抑制に関与し、成熟尿細管に発現するJNKは嚢胞壁および異形成尿細管上皮細胞でその発現が減少していた。 2.多発性嚢胞腎モデルpcyマウスにおけるMAPキナーゼの役割 pcyマウス生後1日より嚢胞形成が認められた。嚢胞壁においてERK、活性型ERK、p38の発現が増加し、JNKの発現が対照マウス腎に比し減少していた。胎生15日のpcyマウス腎をERK阻害剤U0126存在下で4日間培養したところ、嚢胞形成がU0126非添加腎に比し抑制され、嚢胞形成へのERKの機能的関与が示された。 以上より、MAPキナーゼの発現異常が腎発生異常に関与することが示唆される。
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