MAPキナーゼのERK、p38は胎児腎に強く発現し、ネフロン形成、腎成長に必要である。一方、JNKは成熟腎に発現し、後期分化または形質維持への関与が示唆される。私たちはヒト多嚢胞性異形成腎の嚢胞においてp38、ERKの発現・活性が増加し、JNKの発現・活性が減弱していることを報告した。多嚢胞性異形成腎には尿路閉塞が高頻度に合併し、発症への関与が示唆される。今回、ヒツジ胎仔尿路閉塞モデル腎におけるMAPキナーゼの発現を検討した。 対象は胎生50日(n=5)、60日(n=5)で作成したヒツジ胎仔尿路閉塞モデル。雄(n=7)は尿道および尿膜管を結紮、雌(n=3)は片側尿管を結紮、妊娠満期(145日)に帝王切開により胎仔を娩出した。雌の対側腎または無処置の同胞仔腎を対照とした(n=4)。MAPキナーゼおよび活性型ERK(P-ERK)、PCNAの免疫組織染色およびTUNEL染色を行った。 胎生期尿路閉塞により多嚢胞性異形成腎(n=4)と小嚢胞を伴う低形成腎(n=6)の2種類の腎が作成された。これらの腎の嚢胞上皮、異形成尿細管ではPCNAの発現増加が認められた。TUNEL陽性細胞は多嚢胞性異形成腎の間質と異形成尿細管上皮に観察されたが、低形成腎では対照腎と同様ほとんど認められなかった。p38は対照腎には認められなかったが、尿路閉塞腎の嚢胞、異形成尿細管上皮に染色された。ERK、JNKは、対照腎では尿細管、集合管に染色され、P-ERKは遠位尿細管、集合管の一部に染色された。尿路閉塞腎では嚢胞、異形成尿細管上皮におけるERK、P-ERK発現増加とJNKの発現減弱が認められた。 胎生期尿路閉塞腎の嚢胞、異形成尿細管において、細胞増殖亢進に伴いP38、ERK、P-ERKの発現増加、JNKの発現減弱が認められた。MAPキナーゼの発現異常が尿路閉塞腎の嚢胞形成に関与する可能性が示唆される。
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