研究概要 |
細胞内シグナル伝達の中核的酵素MAPキナーゼ(MAPK)スーパーファミリーの腎発生における意義を検討した。まずMAPKとMAPK不活化酵素MAPK phosphatase 1(MKP-1)の腎における発現を検討した。Extracellular signal-regulated kinase (ERK)とp38MAPK(p38)、MKP-1は幼若腎に強く発現し、c-Jun N-terminal kinase (JNK)は成熟腎に発現した。活性型のERK、p38、JNKの発現もそれぞれの蛋白発現と相関した。免疫組織学的検討では、ERKはネフロン形成に伴って皮質から髄質側へ移行した。これに反し、p38は腎全体にびまん性に発現した。MKP-1の空間的発現はp38のそれと同様であった。JNKは成熟腎の尿細管すべてに発現した。 次に腎発生における機能的意義を検討した。ラット腎をERK活性化酵素MEK阻害剤PD98059、UO126、またはp38阻害剤SB203580存在下で培養、腎成長ネフロン形成、尿管芽分岐への影響を検討した。,ERKはネフロン形成と尿管芽成長に、p38は腎成長とネフロン形成に関与することが示された。 ERK、p38が腎発生において必要であることから、ERK、p38の異常により腎発生異常が生じる可能性が考えられる。そこで最も頻度の多い腎奇形、異形成腎におけるMAPキナーゼの発現を検討した。胎生10週-21歳のヒト多嚢胞性異形成腎6例につき検討、嚢胞壁におけるp38、ERKの発現増加、活性化と、JNK発現低下を認めた。同様の変化は多発性嚢胞腎モデルpcyマウス嚢胞壁にも観察された。 p38が腎成長、ネフロン形成に、ERKがネフロン形成に関与することから、腎成長、ネフロン形成に関与書,するbFGFのシグナル伝達におけるMAPキナーゼの役割を検討した。培養後腎間葉細胞においてbFGF刺激によりp38、ERKは活性化され、細胞増殖・遊走を媒介することが示された。 多嚢胞性異形成腎には尿路閉塞が高頻度に合併し、発症への関与が示唆される。そこでヒツジ胎仔尿路閉塞モデル腎におけるMAPキナーゼの発現を検討した。胎生期尿路閉塞腎の嚢胞、異形成尿細管において、細胞増殖亢進に伴いp38、ERK、P-ERKの発現増加、JNKの発現減弱が認められ、嚢胞形成に関与することが示された。 以上、正常、異常腎発生におけるMAPキナーゼの意義が明らかにされた。
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