研究概要 |
先天性銅代謝異常症の代表的疾患であるWilson病の日本人症例30例に対して,原因遺伝子ATP7B遺伝子の構造解析を行い,臨床症状・経過,血清セルロプラスミン値などの検査所見および銅特異的ATPase活性との関連について検討した.本症は常染色体劣性遺伝性疾患であり,血族結婚の家系が存在しないにもかかわらず,15例(50%)の症例が変異をhomozygousに有していた.興味深い結果であるとともに,遺伝子変異と病型・病態とを比較検討する上において有用な結果であると考えられた.日本人に比較的多く見られるR778L変異をhomozygousに有する症例は,7例中5例が神経型症例であった.残り2例は発症前型であったが,そのうち1例は,後に神経症状と精神症状が出現した.R778L変異は,神経型に特徴的な変異である可能性が示唆された.この変異を有する症例の銅特異的ATPase活性は,他の変異を有する症例に比べ低値を示していた.また,血清セルロプラスミン値においても,この変異をhomozygousに認めた症例は全例極めて低い値を示していた.なお,この部位はATP7B蛋白において4番目の膜透過部位に含まれると考えられている.これらの結果より,4番目の膜透過部位あるいは778番目のアミノ酸は本蛋白の機能において重要な部位である可能性が示唆された. 日本人症例において,やはり高頻度に認められる2871delC変異をhomozygousに有する症例は,4例中3例が劇症肝炎型あるいは治療抵抗性・進行性の肝型症例であった.残りの1例は神経症状を呈していたが,診断時に肝機能障害を指摘され,その後肝不全が急速に進行した.2871delC変異は重篤な肝障害をもたらす変異であると考えられた.この変異をhomozygousに有するWilson病症例を診断したときは,肝機能の慎重な経過観察と可能な限り早期からのしっかりとした除銅冶療が必要であると考えられた.
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