研究概要 |
日本人Wilson病症例40例に対し,原因遺伝子ATP7B遺伝子の構造解析を行い変異を同定した.日本人症例におけるATP7B遺伝子変異としては,R778L変異(exon 8),A874V変異(exon 11)および2871delC変異(exon 13)が高い頻度にて認められ,これらで全体のアリルの50%以上を占めていた.本邦においてWilson病の遺伝子診断を行う場合は,上記3つのエクソンを含む9つのエクソン(exon 5,8,10,11,12,13,14,16,18)を解析することにより,全アリルの75%以上の変異が検出可能であると考えられた. 臨床症状・経過が明らかな症例について,遺伝子変異と臨床病型の関連を検討した.R778L変異をhomozygousに有する発症後症例は全例神経型症例であった.統計学的にもR778L変異は有意に神経型症例に高い頻度で認められ,神経型に特徴的な変異である可能性が示唆された.また,2871delC変異をhomozygousに有する発症後症例は,4例中3例が劇症肝炎型あるいは治療抵抗性・進行性の肝型症例であった.残りの1例は神経症状を呈していたが,診断時に肝機能障害を指摘され,その後肝不全が急速に進行した.2871delC変異は重篤な肝障害をもたらす変異であると考えられた.さらに,frameshift mutationをhomozyogousに有する発症後症例は全例肝型であり,やはり肝障害が強く認められた.これらの結果より,frameshift mutation,特に2871delC変異をhomozyogousに有するWilson病症例を診断したときは,肝機能の慎重な経過観察と可能な限り早期からのしっかりとした除銅治療が必要であると考えられた.
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