臨床的にケロイドは肩や膝などの絶えず進展刺激を受ける部位に好発する。腎糸球体メサンギウム細胞では、進展刺激によりどの細胞情報伝達系を活性化することが知られいる。このことから、繰り返し加わる進展刺激が皮膚線維芽細胞の増殖やコラーゲン代謝を刺激する細胞情報伝達を亢進し、ケロイド形成に重要な働きをしていることが想定される。今年度は、伸展刺激が真皮線維芽細胞のチロシン・リン酸化を介した細胞内情報伝達に関与しているのかを検討した。 手術材料から得られた正常皮膚線維芽細胞をコラーゲン・コートしたdish上で培養し、Flexercellを用いて5%、10%および15%の伸展率でSigmoid curveの伸展刺激を加えた。15%の伸展率では、細胞はdishから剥離してしまうため、このような強伸展は実験に向いていないことが明らかとなった。5%および10%の伸展率の場合では、細胞は剥離することがなく、実験に適すると考えられた。まずこの条件で実験を行い、伸展刺激がチロシン・リン酸化を介した細胞情報伝達を誘導するかを検討してみた。 伸展刺激を加え30分、1時間、2時間および4時間で細胞可溶画分を回収し抗リン酸化チロシンに対する抗体を用いてimmunoblotにて検討した。5%の伸展刺激でチロシン・リン酸化が亢進する蛋白の分子量は210kDa、125kDa、68kDa、60kDa、44kDa付近であり、その程度は伸展開始30分で亢進し始め、1時間ないし2時間で最高に達し、4時間で刺激前のレベルにまで低下した。10%の伸展刺激では44kDaの蛋白のチロシン・リン酸化が刺激開始30分で最大となったが、その他の蛋白のそれは時間とともに低下した。これらの実験は1回ずつしか行っていないので、実験回数を重ねて確認する予定である。その分子量からそれぞれの蛋白はPDGF receptor、focal adhesion kinase、paxillin、SrcおよびMAP kinaseではないかと推測される。今後、これらの蛋白に対する抗体を使用しimmunoblotおよびimmunoprecipitationを行い確認する予定である。
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