研究概要 |
胎生期に形成された毛包は生後一定の周期をもって成長と退縮を繰り返す。ヒトの毛周期に影響を与える男性ホルモンの標的細胞が毛乳頭細胞であることが明らかとなってきている。その作用機序を分子レベルで解析するために毛組織の上皮系、間葉系それぞれの細胞を培養し、男性ホルモンレセプター、5α-reductase,17beta-hydroxysteroid dehydrogenase(17beta-HSD)の発現についてmRNAレベルで解析した。手術時に得た皮膚より手術顕微鏡下に後頭部毛、髭、腋毛より外毛根鞘細胞、毛乳頭を単離し継代数4-6代に達した細胞を実験に用いた。I型、II型それぞれの5α-reductaseのmRNAの発現をRT-PCR法で調べたところ、I型の5αーリダクターゼのmRNAはすべて毛乳頭細胞に認められたが、II型の5αーリダクターゼは髭のみで強く発現していた。男性ホルモンの不活化に関わるII型17β-HSDのmRNAは上皮系の外毛根鞘で強い発現を認めた。一方、副腎性男性ホルモンを活性化するIII型の17β-HSDは髭及び腋毛の毛乳頭細胞で強く発現していた。男性ホルモンレセプターは髭、腋毛の毛乳頭細胞で認められた。これらの結果より特に女性では副腎あるいは卵巣由来の男性ホルモンは毛乳頭で活性化され作用を発揮するものと考えられた。 毛周期の調節にはEGF、HGF、FGF5などの増殖因子が関与することも知られている。EGF、HGFシグナル伝達に関わる転写因子であるSTAT3を表皮と毛包に特異的に欠損させるコンディショナルノックアウトマウスを作成したところ、胎生期における毛包形成と初回の休止期までは正常であったが、第2毛周期へ移行できなかった。このマウスの表皮細胞はEGF、HGF刺激による増殖は正常であるが、遊走が阻害されていた。すなわちSTAT3を介するシグナルは胎生期における器官形成には関与しないが成長期の開始に必須であると考えられた。
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