皮膚は微生物や紫外線から生体を防御する機能を持つ器官で、最外層は強固な角層肥厚細胞膜でおおわれておりこれは物理的なバリアーとなっている。それと同時に皮膚中には抗微生物活性を有するタンパク質等の物質が外界からの微生物の侵入や増殖を阻害するために存在していると考えられる。我々は皮膚に存在する抗微生物活性を有するタンパク質のうち、角層肥厚細胞膜に存在するシステインプロテアーゼインヒビターであるシスタチンαの抗ウイルスおよび抗細菌活性、および内毛根鞘に局在するbactericidal/permeability-increasing protein(BPI)様タンパク質のグラム陰性菌由来エンドトキシン結合能などの性状について検討した。その結果シスタチンαは微生物の増殖に際して産生されるシステインプロテアーゼの活性を阻害することによって、ポリオウイルスおよび黄色ブドウ球菌V8の増殖を抑制することが観察された。また角層肥厚細胞膜自体もシスタチンαに由来すると考えられるシステインプロテアーゼインヒビターとしての活性を有していた。したがってシスタチンαは皮膚最外層において微生物から生体を防御する機能を担っているのではないかと考えられた。またBPIは本来白血球由来のタンパク質であるが、今回これと類似する性状を持つタンパク質がヒトおよびラット皮膚中にあり、その局在部位は内毛根鞘であることを見い出した。BPI様タンパク質が存在する内毛根鞘は汗管とともに細菌感染がおこりやすい部位であり、このようなところにエンドトキシン活性を阻害するタンパク質が認められたことは皮膚の生体防御機能を検索する上で重要と考えられる。ある種の疾患において病変部にグラム陰性菌が見られるにも関わらず臨床的に重篤な状態に陥らないのはこのようなタンパク質の働きによる可能性が示唆された。
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