研究概要 |
我々が樹立した不死化Paget細胞のpopulation doubling timeは約50時間で、epithelial membrane antigen(EMA)を発現carcinoembryonic antigen(CEA)は殆ど発現せず、高カルシウム培地ではデスモゾームも発現することが確かめられた。この結果はCEAを殆ど発現しない事以外は乳房外Paget病におけるPaget細胞の染色所見と一致する。ケラチン解析では抗ケラチン抗体による免疫組織学的所見による観察と若干の差がみられた。また、SCIDマウスには腫瘍を形成出来ず、これは他の不死化細胞と同様であった。 第2年度は第28代目の培養細胞から染色体解析を行った。その結果、平均75個のchromosomeを持っており、全てのmetaphaseにおいてXO sex chromosome constitutionを認めた。Y chromosomeは欠如していた。また、多数の構造的karyotypicな変異をみとめた。次に、不死化細胞にしばしば認められるp53のmutation検索を施行した。すなわち、p53変異のhot spotであるexon5,6,7,8におけるmutationの有無を38代目の培養細胞からDNAを抽出して検討した。方法はpolymerase chain reaction(PCR)とPCR-SSCPを用いた。その結果、exon7の248番目のcodonにおいてCGGからCAGへのmissense mutationを確認できた。アミノ酸ではArgからGlnへの変異であった。この変異により我々の細胞は長く培養可能になったと考えられた。しかし、不死化したと思われた我々の培養細胞は最終的に老化し、48代目で増殖を停止した。すなわち、我々の培養細胞は染色体に多数の変化を伴い、p53のpoint mutationも認められたが、不死化しなかった。このことは、p53の遺伝子変異のみでは細胞は不死化しないということを意味するものと考えられた。したがって、まだ知られていない他の遺伝子変異がp53のmutationにくわえて起こることが不死化には必要であると考えられた。しかし、我々が得た培養細胞はPaget細胞にみられる殆どの性質を持っており、cell lineがない現在、実験に用いる事が可能な有用な細胞と考える。
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