研究概要 |
胸部X線画像診断において過去画像と比較読影を行う際の見落としを防止し定量的診断を支援するための画像処理方法を開発した.使用症例は金沢大学医学部附属病院において撮影された29症例のディジタル胸部正面X線像である.過去画像と比較して現在の画像の所見にほとんど変化の無い症例および正常が10例,変化の有る症例が19例であった.この差分処理アルゴリズムの最も独創的な点は,過去および現在画像のそれぞれについて,肺紋理だけを強調した画像を作成し,その画像を基に原画像を重ね合わせて差分処理を施したことである.すなわち,肋骨陰影などを基に差分処理を行った従来の手法に比べて,特に微細な肺内の時間的な変化分を強調することを可能にしたことである.このコンピュータ処理による差分画像を参照して行う読影の有効性について,自由応答型の受信者動作特性解析(Alternative Free-response Receiver Operating Characteristic analysis:AFROC)を用いた読影実験によって検証された. 本法による差分画像では,比較的微細な肺内病変が良好に強調描画された.8名の放射線科医の読影結果について,ROC曲線下面積の平均値は0.596(SD,0.053)から0.647(SD,0.065)へと向上し,感度の平均値については43.9%(SD,9.0%)から55.3%(SD,10.3%)へとそれぞれ大きく改善された.1画像あたりに発生する偽陽性の平均値については0.22(SD,0.22)から0.22(SD,0.20)と変わらなかった.ROC曲線下面積について,t-検定(両側検定)の結果,差分画像を参照した場合の診断能が参照しない場合に比べて有意に高いことを示した.すなわち,本法は胸部X線画像診断において医師の比較読影を有効に支援することが明らかとなった.
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