研究概要 |
熱中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy;BNCT)における照射内に含まれる正常細胞への障害度を調べるために、京大原子炉実験所で得られる熱中性子及び熱外中性子をチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)細胞に照射しHPRT遺伝子座の突然変異発生頻度を求めた。また、ホウ素の存在下で同様の実験を行い、ホウ素による突然変異への影響を考察した。次に、突然変異細胞のクローン細胞よりDNAをPCR法により増幅してHPRT遺伝子座の9つのExonを解析した。次に、正常組織の放射線防護の可能性を模索することを目的に、熱および熱外中性子照射におけるDMSO(Dimethyl sulfoxide)の突然変異誘発抑制効果を検討した。 CHO細胞への熱中性子および熱外中性子のHPRT遺伝子座の突然変異発生頻度はγ線と比べて同じ致死効果の照射線量で比較すると、熱中性子モードで1-1.7倍、混合モードで、1.7-2倍、熱外中性子モードで、6.3倍、突然変異の発生頻度が高かった。又、10ppmのホウ素の存在下では,熱中性子モードおよび混合モードでは、突然変異の発生頻度はわずかに上昇したが、熱外中性子モードの場合は突然変異の発生頻度に変化は認められなかった。現在、BNCTで用いている熱外中性子の割合が15.2%の混合モードでは、熱中性子のモードと比べて、ホウ素が存在すれば、突然変異発生頻度の増加は認められない。HPRT遺伝子座9つのExonの解析では、熱中性子および熱外中性子照射に誘発された突然変異はX線やγ線と比べて有意に遺伝子全欠損型や部分欠損型のタイプが多く、点突然変異型の発現は少なかった。DMSOの効果については、HPRT遺伝子座の突然変異発生頻度はDMSOの存在下では、熱中性子および混合モードで約2分の1に低下したが、熱中性子モードでは約3分の1に著明に低下した。
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