電離放射線照射によって生じるDNA二本鎖切断は、照射後培養を続けると修復される。この過程で働く系の一つに二本鎖DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)が関与する系がある。DNA-PKはDNA-PKcsとKu蛋白質で複合体を構成している。 DNA-PK活性は44℃の温熱処理によって失活する。この失活の原因はDNA-PK複合体のKu蛋白質の熱失活であることを明らかにした。 温熱処理後37℃で培養を続けると、熱失活したDNA-PK活性の回復がみられた。このことは、DNA-PK活性の回復は失活したKu蛋白質の回復であることを示している。最も活性の高いDNA-PKの回復が見られるのは、温熱処理後3時間目であった。この活性回復には新規の蛋白質合成を必要としないことをサイクロヘキシミドを加えた実験で明らかにした。 この回復の機構を調べるために、温熱処理後の細胞の核蛋白質を抗Ku抗体で沈殿させ、Ku蛋白質と共沈する蛋白質を解析した。Ku蛋白質と共沈した蛋白質をSDSゲル電気泳動を行い、抗HSC73抗体を用いてウエスタンブロットを行った。その結果、抗HSC73抗体と反応する蛋白質の量は培養時間に伴って増加し、その後減少した。最も増加した時間は温熱処理後3時間目であった。この時間経過は、熱失活したDNA-PK活性が最も回復する時間と一致する。 以上の結果から、温熱処理によって失活したKu蛋白質は熱ショック蛋白質HSC73のシャペロン機能の働きで回復すると考えられる。
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