放射線照射の前又は後で温熱処理を行うことで、放射線の殺細胞効果が増加するという温熱増感作用が知られている。この原因はDNA二本鎖切断の修復系が温熱処理によって阻害されるためと考えられているが、詳しいメカニズムは分かっていない。 二本鎖DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)は触媒サブユニットであるDNA-PKcsとDNA二本鎖結合サブユニットであるKu70/80ヘテロ二量体からなる複合体である。 本研究ではScid細胞とハイブリッド細胞を用いてDNA-PK活性の温熱感受性について検討した。その結果、DNA-PK活性は44℃、15分の温熱処理によって失活する事を明らかにした。さらに、熱失活したDNA-PK活性は温熱未処理のscid細胞の抽出液を加えることによって回復する事を明らかにした。一方、温熱処理したScid細胞の抽出液を加えても活性の回復は見られなかった。Scid細胞はDNA-PKcsは欠損しているが、Ku70/80は正常である。このことは熱感受性の原因はKu70/80ヘテロ二量体が温熱感受性であることを示している。 次に、温熱処理と放射線照射によって生じたDNA二本鎖切断の再結合をパルスフィールドゲル電気泳動を用いて調べた。ハイブリッド細胞ではDNA二本鎖切断の再結合は早い修復と遅い修復の和となる二相性を示した。細胞に温熱処理を行うと早い修復が特に阻害された。一方、Scid細胞では遅い修復のみが見られた。このことはDNA-PK活性が温熱感受性であることと合わせて考えて、早い修復がDNA-PKが関与している修復であることを示している。 以上の結果から、温熱増感効果はDNA-PKが温熱処理によって熱失活することが原因であると考えられる。
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