癌細胞からのC-11酢酸のclearanceは、癌細胞の酸素代謝を反映する可能性がある。まずインフォームドコンセントの得られた未治療の肺癌放射線治療予定者を対象として、C-11酢酸を用いたポジトロン断層法を施行し肺癌からのC-11酢酸のclearanceを測定した。また、放射線治療終了1ヵ月後治療効果を判定し、両者の間の関連について検討した。その結果、肺癌の放射線治療効果と肺癌からのC-11酢酸のclearanceとの間に明らかな関連は認められなかった。次に、インフォームドコンセントの得られた未治療の肺癌外科的切除予定者を対象として、術前にC-11酢酸を用いたポジトロン断層法を施行し肺癌からのC-11酢酸のclearanceを測定した。また、F-18FDGを用いたポジトロン断層法を施行し肺癌の生体における糖代謝活性を測定した。さらにTc-99m MIBIを用いたSPECT像をTc-99m MIBI静注15分後および3時間撮像し、肺癌からのTc-99m MIBIの排出能を測定した。肺癌外科的切除後、抗癌剤耐性関連タンパクであるP-糖タンパクに対するモノクローナル抗体(JSB-1)を用いた免疫組織化学染色法にて切除肺癌組織内のP-糖タンパクの発現を定量した。その結果、肺癌からのC-11酢酸のclearanceと肺癌のP-糖タンパクの発現との間には関連は認められなかった。肺癌のP-糖タンパクの発現と肺癌の糖代謝活性との間には有意な負の相関関係が認められ、糖代謝活性の低い肺癌はP-糖タンパクの発現が高い傾向が認められた。特に細気管支肺胞上皮癌は、糖代謝活性が低くP-糖タンパクの発現が高かった。肺癌からのTc-99m MIBIの排出能は肺癌のP-糖タンパクの発現と関連があり、P-糖タンパクの発現の高い肺癌ほど肺癌からのTc-99m MIBIの排出能は高い傾向が認められた。本研究により、肺癌の糖代謝活性あるいは肺癌からのTc-99m MIBIの排出能を測定することによって肺癌のP-糖タンパクの発現の程度を非侵襲的に推測できることが判明した。
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