研究概要 |
温熱療法は、主として臨床的には、癌治療の目的のためには癌細胞を破壊させるため加温温度としては43℃が適用されている。しかし、我々の陰熱の目的は、細胞にストレス防御のためのストレス蛋白、HSP70を誘導することであり、細胞を障害させたり、破壊する事ではない。むしろ細胞は出来るだけ障害を与えないことが望ましい。 そこで、本年度は、出来る限り細胞に障害を与えず加温し、全身に多くのストレス蛋白を誘導する最適方法を確立した。また、其の連続加温による影響、加温後のストレス蛋白の経時変化を検討した。ストレス蛋白の定量は我々の開発したELISA法で測定し、各臓器でのストレス蛋白の発現はHSP70の免疫染色で確認した。 1. 直腸温40℃による全身加温方法の確立 加温装置は、期間限定で借用した動物実験用THERMOTORON-RF8を使用した。種々の方法で検討した結果、マウスの上・下に保冷剤のゲルを入れた袋を置き、これを予め暖めておくと共に電極で加温する事によりマウスを全身加温する。この時直腸に電極を挿入し、40℃にセットすることにより全身を40℃加温する。他電極を脳、肝臓、腎臓に挿入し直腸温40℃の全身加温時における各臓器の温度を測定した結果、腎臓、肝臓では加温電極に近いためか若干高値であった。最初の9分は、オーバーシュートがおこり、約41℃前後にまで加温されてしまうが、その後は安定して直腸温40℃を維持した。 2. 直腸温40℃全身加温による1回、2回、3回、4回の連続加温によるストレス蛋白の誘導 直腸40℃全身加温30分を1回/day、を連日実施し、2、3、4回の連続加温を行い、2日後に採血および各臓器を摘出した。血算およびリンパ球と各臓器のHSP70の誘導をELISA法で定量した結果、血算ではリンパ球が1日後若干増加した以外、赤血球、ヘモグロビン、血小板など著明な変化は認めなかった。リンパ球のHSP70は、1回加温で約4倍に増加し、2、3、4回加温と次第にHSP70は減少し、対照の値に戻った。肝、胸腺、胃、小腸、腎、副腎、肺、大脳、脾、大腿、心臓、頬筋、子宮のHSP70を測定した結果、最も高値を示したのが副腎であり、1回加温で約2倍に増加し、一旦2回加温で戻り、3回加温で1.5倍に増加し4回加温でまた、対照値に戻った。値は低いがこの傾向はほぼどの臓器にも認められた。各臓器のHE染色から、殆どの臓器において、直腸温40℃全身加温による温熱障害は認めなかった。HSP70の免疫染色で腎、肝において染色が認められた。 3. 直腸温40℃加温による2時間,1,2,4,6,9日後のストレス蛋白の誘導実験では2日後に最大のHSP70が誘導された。また、4.)37℃インキュベーターでの全身加温によるエンドトキシン誘発DICの防御実験の予備実験を実施した。
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