研究概要 |
温熱療法は主として、癌治療のため癌細胞を43℃で殺すことを目的とする。本研究の目的は、温熱ストレスにより細胞にストレス蛋白(HSP 70)を誘導し、細胞を種々のストレスから防御する事である。よって、初年度は、細胞に障害を与えず加温し全身に出来るだけ多くのHSP 70を発現させるための予備加温方法を検討した。次年度は、この予備加温による生体防御作用をLPS投与によるエンドトキシンショックおよび筋疲労からの防御効果で検討した。 (1)予備加温の検討(直腸温40℃による全身加温) 動物加温実験用THERMOTORON-RF8を使用し、マウスの上下に保冷剤のゲルを入れた袋を置き電極で加温し直腸温40℃で30分の全身加温を1回/日を1,2,3,4日と繰り返し加温した。その結果、1回加温が最もHSP 70を大量に誘導した。この予備加温法は肝・腎などの臓器の温熱障害は認めず、安全な加温方法であった。 (2)予備加温(直腸温40℃30分全身加温)によるLipopolysaccaride(LPS)でのエンドドキシンショック(DIC)の防御マウスを予備加温30分全身加温(直腸温:40-41℃)後、1、2、7日後にLPSを腹腔内投与しDICからの生存率を測定した。対照群は23%、加温1日後は33%、加温2日後は45%、加温7日後は20%であった。予備加温2日後に最大にHSP 70が誘導された。よって、予備加温で誘導したHSP 70がDICから防御し生存率が増加した。 (3)マウス下肢局所予備加温による下肢筋疲労の防御 マウス下肢局所を41℃30分予備加温し、1,2,7日後、再度下肢を47℃で加温し、下肢筋のエネルギー代謝を31P-MRSで測定した。その結果,47℃加温のみでは10分後より無機リンが出現し、40分後にはクレアチンリン酸、ATPが枯渇し、無機リンのモノピークとなり完全疲労を示した。予備加温1日後では60分後にエネルギーは枯渇し完全疲労を示し、2日後では60分後でもエネルギーは残存し完全疲労しなかった。7日後は予備加温の効果はなく、40分後に完全疲労を認めた。下肢筋のHSP 70は2日後が最大であった。以上の結果より,予備加温により誘導されたHSP 70により、筋疲労が抑制された。 以上、直腸温40℃30分全身加温による全身予備加温により全身に誘導されたHSP 70がLPSによるエンドトキシンショックを防御し、下肢筋の41℃30分局所加温による局所予備加温により下肢筋に誘導されたHSP70が筋疲労を防御した。よって、予備加温(HSP 70の誘導)は手術・ショック・疲労などから生体を防御することが証明された。予備加温は臨床的にも移植・手術・虚血・環流(ストレス)の回復を促進すると思われた。
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