研究概要 |
分裂病の病態として,(1)内側側頭葉と関連する意味連合記憶の障害と,(2)前頭前野と関連する作業記憶の障害とが重要視されている.すなわち,作業記憶の障害により文脈的な手がかりの利用が不十分となり,さらに前頭葉からの抑制が低下し意味連合記憶の過剰活性化がおこるため,分裂病に特有な思考障害などの症状が出現するという仮説である(Maher 1987,Spitzer 1997).本研究は,意味記憶と作業記憶を事象関連電位を用いて評価する方法を確立して,それらの記憶機能と分裂病の臨床特徴との関連を明らかにすることを目的に行われた.初年度は,分裂病(DSM-IV)10名を対象に,事象関連電位のうち意味処理を反映するN400電位(Matsuoka et al.1999)を単語課題と反復課題を用いて計測し,それと思考障害評価尺度TDI(Johnston and Holzman 1979)によって数量化された分裂病性思考障害(山崎ら1998)との関連を検討した.意味記憶を反映するN400電位については単語課題でのひらがな文字と非読外国文字の間の引算波形からその頂点を同定しその潜時と振幅を,また,作業記憶と関連するN400反復効果については反復課題を用いて非反復文字と反復文字の間の刺激後300〜598msecの平均振幅差を求めた.その結果, N400潜時とTDIの「特異的言語表現」因子の間に有意の正相関(ρ=0.68,p.=0.030), N400潜時とTDI総得点の間で正の相関傾向(ρ=0.552,p=0.098), N400反復効果とTDI総得点の間で負の相関傾向(ρ=-0.552,p=0.098)を認め,分裂病性思考障害が意味記憶と作業記憶の障害と関連することが示唆された.
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