研究概要 |
事象関連電位を用いた先行研究において,寛解期の分裂病ではパターン認知を反映するNA電位と,意味・言語処理を反映するN400電位に特異な異常のあることを見出した.そこで,知覚,思考(言語),記憶など種々の認知機能領域にまたがって起こる分裂病の病態を統合的に把握するのを目的として,独自に開発したNA電位とN400電位を同時に評価する視覚性認知課題(単語課題,反復課題)を用いて,1.N400異常の原因,2.事象関連電位と思考障害評価尺度(Johnstone and Holzman 1979)によって数量化した思考障害との関連を,同意の得られた分裂病患者15名を対象に検討した.NA電位の各種パラメーターで検討したが,相互には有意の相関を認めなかったため,分裂病でのN400異常は,パターン認知の異常とは独立して起こっていることが示唆された.また,N400異常は,単語課題ではなく反復課題で顕著に認められたため,N400電位の発生機構ではなくN400電位の調製機構(反復プライミング)によって生じていることが明らかになった.次に,思考障害評価尺度の総得点とNA電位とN400電位の関連を検討したが,相互には相関を認めなかった.そこで,総得点の低い群と高い群に分けて検討したところ,総得点の高い群においてのみN400電位の直後反復効果と強い有意の相関を認めた.これらの結果より,分裂病の思考障害の一部が作業記憶の障害に起因することが明らかになった. 横断的症状,縦断的経過,予後,治療反応性などから分裂病の異種性が指摘されているが,以上の事象関連電位での検討より基本的病態としての脆弱性(認知障害)自体も多次元的ないし異種的である可能性が支持された.各臨床特徴に対応する脆弱性指標を確立し,それら複数の生物学的指標を用いた脆弱性研究が今後重要となることを指摘した.
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